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「腹を括る」べき時     ― A.A.

・フジタの社員の拘束
今週は、今回の事件で中国が打出した数々の対日制裁について述べる。たしかに中には中国政府は関わっていないと主張しているものもある(例えばフジタの社員の拘束)。しかしそれらが政府の意向と全く関係がないということはない。

まず中国の一連の制裁が不可解なことである。中国の戦略性を指摘する声があるが、筆者に言わせるならこれは間抜けな解説である。一連の対日制裁は全く支離滅裂である。

その中で筆者が一番常軌を逸していると思ったのは、4名のフジタ社員の拘束である。中国の軍事施設をカメラにおさめたという理由で長期間拘束された。しかし話が明らかになるにつれ、フジタ社員の行動は、中国にとって全く実害はないことがはっきりしてきている。

偵察衛星でかなり詳細な情報が得られる今日、フジタ社員(カメラで写したのは中国人の現地社員)が撮った写真に軍事的な価値がほとんどないことははっきりしている。フジタ社員の拘束は明らかに日本に対するいやがらせである。

そもそもフジタ社員は、旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業への入札のための調査で現地に行っていた。この処理は、中国の強い要望によるODA事業である。しかし中国側が主張する処理件数が日本の調査と大きく異なるなど疑惑がある。このため処理費用が泥沼のように増える可能性があり、当初、日本政府が躊躇した案件である。それを河野洋平氏などの親中派の政治家が強引に押切り実現したものである。

そもそも、当時、日本では「遺棄化学兵器というが、これは中華民国が旧日本軍から押収し、さらに中共軍が中華民国軍から奪った、つまり中国にとっての戦利品ではないか」という意見があったくらいである。つまり戦利品が今頃になって手に余るから、元の持ち主である日本の負担で処理を求めるのは虫が良すぎるという考えである。たしかにこれにはなかなか理解が得られないかもしれないが、遺棄化学兵器処理について日本国内には色々な意見があったことは事実である。

さらに遺棄化学兵器処理については、入札を巡って金にまつわる醜聞もつきまとっていた。このように遺棄化学兵器処理はいわくつきの事業である。今回のフジタ社員拘束事件で、今後、まともな企業はますます応札しなくなる可能性が高い。中国は、このような事情をどこまで考慮してフジタの社員の拘束したのか不明である。

フジタの社員が拘束されたのは河北省石家荘市である。まさに毒入り冷凍ギョーザの天洋食品の所在地である。このことと今回のフジタ社員拘束と何らかの関係があるのか、あるいは偶然なのかこれも不明である。

中国は否定すると思われるが、今回の事件でほとんどの日本人は中国を危険な国と感じたはずである。中国はとても気軽に旅行するような国ではない。「万里の長城」も軍事施設と言われ、カメラにおさめると逮捕されるかもしれない。

これらの他にもこの事件にはおかしいことがつきまとっている。フジタの親会社であるゴールドマンサックスが、最近、中国工商銀行の株式を22.5億ドルも売却している。これが今回の事件と関係しているという話があるが、本当に関係しているのか不明である。

・レアアースの禁輸
次に取上げるのはレアアースの禁輸である。もっともレアアース禁輸のようなWTO協定違反事項に、中国政府が関与していると公言するわけには行かない。しかし中国政府はこれを外交のカードに使うつもりである。ただし中国は、今のところ日本向けだけでなく他の国への輸出も止めているようである。

ご存じの通り、レアアースはハイテク製品製造に必要であり、また現在この生産は中国がほぼ独占状態である。もっともレアアース自体は中国以外にも存在し、過去には実際に生産もしていた。しかし中国が低賃金と環境無視の開発によって低価格の輸出を始めたため、それらの国はレアアースの生産を止めてしまったのである。ただこれらを再開発したり、鉱山を新規開発するには多少時間がかかるという話である。

たしかに日本のハイテク産業には今回の禁輸は打撃となる。ましてや日本は世界の中で最大の輸入国である。レアアースの在庫が尽きれば、ハイテク製品の製造に影響が出てくる。

しかし中国にはレアアースを使う技術がなく、在庫がどんどん積み上がると思われる。つまり今後は日中のチキンレースとなる。中国はレアアースを使う産業の中国への移転や技術移転を要求して来る可能性がある。

レアアース問題は、低賃金と環境無視といった世界経済における今日の中国問題の象徴でもある。もちろん低賃金は異常な人民元安で実現された部分が大きい。もし人民元安が是正され、中国が環境保全に費用をかけるようになったなら、中国産のレアアースはたちまち価格競争力を失うと考えられる。

日本政府はレアアース対策を強化する。また今回の禁輸措置をきっかけに、日本だけでなく、他の国もレアアースの開発に本腰を入れ始めるようである。したがって当面レアアースの価格が高騰しても、数年後には価格は落着くものと見ている。筆者は、世界的にこのような動きが加速されることが分かっていながら(分かっていなかった可能性もあるが)、なぜ中国は禁輸という強行手段に出たのか理解できない。

三番目に取上げるのは日本への観光客の渡航自粛措置である。日本の観光地や大都市の商業施設にとってこれは打撃である。特に中国人へのビザ発給の緩和によって、中国人観光客の増加を期待していた向きにはショックであろう。

中国は、不況の日本にとって中国観光客が有難い存在と分かっていて、今回の措置を講じたと見られる。中国は今回の措置で損害を受ける人々が日本政府を突き上げてくれることを期待したのであろう。しかし少なくとも表面上は今のところそのような動きはない。

しかし日本の経済規模を考えれば、中国観光客の経済効果なんて知れている。仮に年間に200万人の中国観光客が増えても、数千億円の需要増にしかならない。今回の措置は観光地などにピンポインで衝撃を与えるかもしれないが、日本経済全体にとっての影響は微々たるものである。

逆に今回の事件で、日本人の中国への観光客の減少が予想される。特にフジタ社員の拘束事件の影響は大きいと思われる。したがって対中国では旅行収支の点で影響は、プラス・マイナスでほぼゼロに近いということになろう。

本誌は、日本のデフレ経済を克服するために外国から観光客を呼込むという日本政府の方針を、何回も「ばかばかしい」と指摘してきた。慢性的に経常収支が大幅に黒字である日本が、外国からの観光客を増やしてデフレ対策と言っているのだから頭がおかしいのである。このようなことでは円高要因が永遠に解消されない。

日本政府のやることは、大胆な財政政策を行うことによって国内の需要を喚起することに尽きる。これによって日本人の所得を大きく増やし、日本人が観光ができ、日本人が街で買い物ができる経済状態に復帰させることである。

今回の事件の教訓として、筆者は中国の不当な圧力に対して日本人は「腹を括(くく)る」べきと主張したい。たしかに対日制裁が続き、日本が妥協しなければ日本経済にも悪影響があることは明らかである。GDPも多少減るであろう。しかし正しいと信じる主張は貫くべきである。

これまでもオイルショックやプラザ合意後の超円高を克服してきたのであるから、日本人にとって今回の中国の制裁なんてたいしたことはない。そしてこの「腹を括る」ということが、対中関係での一つのポイントとなろう。                               

来週は、米国がなぜこれまで人民元安を容認してきたのかについて述べる。

                    
                   ― 経済コラムマガジン10/10/11(634号)より転載 
                    http://www.adpweb.com/eco/index.html

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